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脳疲労とは、長時間の認知作業や情報処理によって集中・判断などがしにくくなった状態を日常的に表す言葉で、医学上の正式な病名ではありません。
「頭がぼんやりする」「簡単な判断なのに時間がかかる」「休んだはずなのに頭だけ働き続けている」。こうした感覚を調べるなかで、「脳疲労とは何だろう?」と検索した方も多いのではないでしょうか。
大切なのは、脳疲労を「脳のエネルギーが空になった状態」や「脳の病気」と単純に考えないことです。この記事では、認知疲労に関する研究も踏まえながら、脳疲労の意味、現れやすいサイン、脳で何が起きていると考えられているのかを整理します。
目次
脳疲労とは?簡単にいうとどんな意味?
脳疲労とは簡単にいえば、認知作業や情報処理が長く続き、集中・判断・記憶といった働きをいつものように維持しにくくなっている状態を表す日常的な言葉です。ただし、「脳疲労」という名称自体は医学上の正式な診断名ではありません。
2023年3月30日更新の「疲れの情報局」では、日本疲労学会理事長などを務めた渡辺恭良先生の監修のもと、視覚や聴覚から多量の情報が入り続けることで、集中力の低下や仕事上のミスなどにつながる状態として脳疲労が紹介されています。
アイセイ薬局の健康情報サイト「HELiCO」でも、菅原脳神経外科クリニック院長の菅原道仁先生が、脳疲労は正式な医学用語ではないとしたうえで、活動と休息の切り替えがうまくいかず不調が蓄積した状態として説明しています。
医学研究では、これに近いテーマとして認知疲労(cognitive fatigue)や精神的疲労(mental fatigue)が研究されています。長時間の課題を続けるにつれて、集中を維持しにくくなったり、反応速度や正確さが変化したりする現象ですね。
つまり、脳疲労という言葉は一つの病気や単一の脳内異常を示すものではありません。
「最近、頭を働かせ続ける負荷が高くなっていないか」を振り返るための分かりやすい表現として捉えるのが適切だと私は考えています。

脳疲労では脳の中で何が起きている?
「脳疲労」という一つの確立した医学的病態が確認されているわけではありません。一方、長時間の認知作業によって精神的疲労が増し、注意や意思決定などのパフォーマンスが変化することは研究されています。
ここで、「脳は全身のエネルギーを多く使うから、考えすぎると燃料切れになる」と理解するのは少し注意が必要です。
脳が安静時にも多くのエネルギーを消費する臓器であることと、日常的にいう「脳疲労」の発生を、そのまま同じ仕組みとして結びつけることはできません。
注目されている研究の一つが、Antonius Wiehlerらが2022年に医学・生物学誌『Current Biology』で発表した研究です。
研究では約40人の参加者を、より負荷の高い認知課題を長時間行う群と比較的負荷の低い課題を行う群に分け、磁気共鳴分光法などを使って脳内の変化を調べました。
高負荷の認知課題を続けた群では、外側前頭前野におけるグルタミン酸関連の変化が確認され、さらに疲労後の意思決定では、より負担の少ない選択肢を好む傾向がみられました。
ただし、この研究だけから「グルタミン酸がたまること=脳疲労の原因」と一般化することはできません。研究環境で長時間の認知課題を行ったときに生じる変化を示したもので、日常で使われる「脳疲労」という言葉すべてを説明するものではないからです。
もう一つ重要なのがワーキングメモリです。
ワーキングメモリは、情報を一時的に保持しながら考えたり作業したりする機能で、「脳のメモ帳」に例えられることがあります。公立諏訪東京理科大学の篠原菊紀先生が2025年5月9日公開の記事で解説しているように、その処理容量には限りがあります。
たとえば資料を作っている途中でメールを確認し、スマートフォンの通知に反応し、チャットへ返信したあと、また資料へ戻る。
一見「同時に仕事をこなしている」ようでも、実際には注意する対象を何度も切り替えています。私は、この作業量だけでなく注意の切り替え回数が増えていることが、現代の「頭が疲れた」という感覚を考えるうえで重要なポイントだと感じています。

脳疲労とはどんな症状やサインが現れる状態?
脳疲労と呼ばれる状態では、集中や判断といった認知面を中心に、気分、睡眠、身体感覚などにも変化を感じることがあります。ただし、どれも脳疲労だけに特有の症状ではありません。
一般的に語られるサインには、次のようなものがあります。
- 集中力が続きにくくなる
- 普段ならしないような確認ミスが増える
- 判断や優先順位づけに時間がかかる
- 最近聞いたことや確認したことを思い出しにくい
- 頭がぼんやりする、重く感じる
- 仕事や家事を始めることがおっくうに感じる
- イライラや不安を感じやすくなる
- 日中の眠気や疲労感が残る
- 寝つきにくい、途中で目が覚める
- 頭痛やめまいなどを伴うことがある
ここで一番気をつけたいのは、このチェック項目だけで「私は脳疲労だ」と診断することはできないという点です。
強い眠気、集中困難、頭痛、めまい、だるさなどは、睡眠不足や心理的ストレスだけでなく、睡眠障害や貧血、甲状腺機能の異常など、医療的な評価が必要な状態でも起こり得ます。
特に、十分な睡眠時間を確保しても強い眠気が続く、仕事や学業に明らかな支障が出ている、睡眠中の激しいいびきや呼吸停止を指摘された、頭痛やめまいが繰り返すといった場合は、「脳疲労だろう」と決めつけず医療機関へ相談することが大切です。
突然経験したことのない激しい頭痛が起きた、ろれつが回らない、片側の手足が動かしにくい・しびれる、意識がおかしいなど急激な神経症状がある場合は、脳疲労の問題として様子を見ず、速やかな医療対応が必要です。
脳疲労は便利な言葉ですが、診断名ではない。この線引きを知っておくことが、健康情報としてはとても重要だと私は考えています。

なぜ現代人は脳疲労を感じやすいの?
現代で脳疲労という言葉が注目される背景には、情報量の増加、デジタル機器の長時間利用、頻繁な注意の切り替え、睡眠不足、ストレスなどが重なっていると考えられます。
2023年の「疲れの情報局」でも、スマートフォンを通じてSNSや動画配信サービスなどを日常的に利用するようになり、脳へ入ってくる情報が増えたことが脳疲労の背景として挙げられています。
さらに「HELiCO」の解説では、パソコンやスマートフォンの継続的な利用だけでなく、コミュニケーションツールの普及によって即時の対応を求められやすくなった現代の環境にも触れられています。
そこで見落としやすいのが、身体を休めている時間と、認知的な休憩は同じとは限らないということです。
仕事を終えてソファへ座り、身体は動かしていなくても、スマートフォンでショート動画、SNS、ニュース、メッセージを次々に確認すれば、新しい情報への注意は続きます。

スマートフォンと認知機能の関係では、Adrian F. Wardらが2017年に『Journal of the Association for Consumer Research』で発表した研究も知られています。
約800人を対象にした実験では、スマートフォンを別室に置いた条件の参加者が、机上など身近に置いた条件より一部の認知課題で良好な成績を示しました。研究チームはこの現象を「Brain Drain」と表現しています。
一方、その後の研究では再現性や影響の大きさについて一貫しない結果も報告されています。
そのため、「スマートフォンが近くにあるだけで脳の能力が必ず低下する」と断定するのは適切ではありません。
実生活で注目しやすいのは、端末そのものよりも、通知を見る、返信する、別のアプリを開く、元の作業へ戻るという注意の切り替えです。
スマートフォンを悪者にするのではなく、「一日の中で自分の注意が何回呼び出されているか」を見る。この視点のほうが、私は日常生活へ落とし込みやすいと考えています。
また、オンライン上の情報を過剰に消費する状況を表す「brain rot(ブレインロット)」が、Oxford University Pressによる2024年の「Word of the Year」に選ばれたことも象徴的です。
ただし「ブレインロット」も医学的な診断名ではありません。「スマホで脳が腐る」という意味で医学的に証明された言葉ではないため、脳疲労と同様にキャッチーな表現だけが独り歩きしないよう注意したいですね。
脳疲労を考えるカギは「情報量」より休息への切り替え
脳疲労への向き合い方を考えるときは、特別な方法で脳を「治す」ことより、認知負荷が連続する時間を減らす視点が現実的です。
「疲れたからスマートフォンを見る」という行動は、気分転換にはなっても、必ずしも情報入力の少ない休憩にはなりません。
そこで、短時間でも画面を閉じる、通知から離れる、目を閉じる、静かな場所で過ごす、散歩をするといった時間をつくれば、少なくとも新しい情報入力や注意の頻繁な切り替えを減らすことはできます。
これは「脳疲労を医学的に治療する」という意味ではありません。あくまで連続した認知作業から離れ、休憩をつくるための考え方です。

長年リラクゼーションの現場にいると、「休もうと思っているのに、何かしていないと落ち着かない」という方にも出会います。
ここからはセラピストとしての私見ですが、脳疲労という言葉が現代の人に響く理由は、単純に仕事量が増えたからだけではないと思っています。
仕事と休息の境界が薄くなったことも大きいのではないでしょうか。
以前なら会社を出れば仕事上の情報から離れられた人も、今はメールやチャットを自宅で確認できます。さらに休憩時間にはSNS、動画、ニュースが入り、眠る直前まで情報を受け取れます。
だから私は、脳疲労を考えるとき「一日にどれだけ情報を見たか」だけではなく、自分の注意が誰にも呼び出されない時間を持てているかを見ることも大切だと感じています。
静かな水面も、石を投げ続ければ波紋が消えません。休息も同じように、新しい刺激を少し止める余白があって初めて成り立つのかもしれませんね。
一方、ドライヘッドスパを含むリラクゼーション施術を、脳疲労という医学的状態を治療するものとして考えることはできません。
私たちセラピストができるのは、治療ではなく、画面や仕事から離れて静かに過ごせる時間を提供することです。この違いを曖昧にしないことが、施術を提供する側にも必要だと私は考えています。
まとめ|脳疲労とは認知的な負荷が続いた状態を表す言葉
脳疲労とは、長時間の認知作業や大量の情報処理などによって、集中・判断・記憶といった働きを維持しにくくなった状態を日常的に表す言葉です。医学上の正式な病名ではなく、医学研究では認知疲労や精神的疲労といった概念が研究されています。
2022年のWiehlerらの研究では、長時間の高負荷な認知作業に伴う前頭前野の代謝関連変化や意思決定の変化が報告されていますが、「脳疲労=脳のエネルギー切れ」と単純化することはできません。
現代生活で振り返りたいのは、パソコンやスマートフォンそのものを悪者にすることではなく、長時間の作業、頻繁な通知、マルチタスク、睡眠不足などによって、注意を使い続ける時間が長くなっていないかという点です。
そして脳疲労という言葉は、自分で病名をつけるためのラベルではありません。「最近、頭を使い続けていないかな」「情報から離れる時間を持てているかな」と生活を見直す入り口として使うのが、私はもっとも健全だと考えています。
よくある質問
脳疲労とは何ですか?
長時間の認知作業や多量の情報処理などに伴って、集中、判断、記憶などの働きを維持しにくくなった状態を日常的に表す言葉です。医学上の正式な病名ではありません。
脳疲労では本当に脳に異常が起きているのですか?
「脳疲労」という単一の病態が医学的に確立されているわけではありません。ただし、長時間の認知作業に伴う認知パフォーマンスや脳内代謝、意思決定などの変化を調べる研究は行われています。したがって「単なる気のせい」とも「脳がエネルギー切れを起こした」とも単純には言えません。
脳疲労だと思ったら病院へ行くべきですか?
一時的な疲れだけで直ちに受診が必要とは限りませんが、十分に眠っても強い眠気や不調が続く、仕事や学業へ大きな支障がある、頭痛やめまいを繰り返すなどの場合は医療機関へ相談してください。突然の激しい頭痛、片側の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、意識の異常など急激な症状がある場合は、脳疲労と自己判断せず速やかな医療対応が必要です。